マーケの成否を握る「カテゴリーの法則」–品質で勝負する競合戦略が効かない理由

ティモシー・フェリス(Tim Ferris)の新著「Tools of Titans」で紹介されていた「売れるもマーケ、当たるもマーケ–マーケティング22の法則」(原題:”The 22 Immutable Laws of Marketing”)という本を読んでおる。その中に、

「政治活動を除くと、人間のあらゆる活動のなかでマーケティングほどお金が無駄にされているものはない」

とあるのだけれど、本が出版された当時だけに限らず今もあるあるな気がするので。22あるという法則の中でも、特に刺さった部分を紹介しようかと。

マーケティングのバイブル

この本、初版が出たのはなんと1993年と約25年前にさかのぼるの。わたしのデビューは遅ればせながらもいいところです…。でも、その本質的で普遍的な内容は、現代のマーケティングにも十分当てはまると思う。

日本語で検索してみたら、田端信太郎(@tabbata)さんが2008年頃(!)に当時のブログで紹介していらっしゃる。以下の抜粋からもわかるように、田端さんのお墨付きのようです。

「いいモノを作れば、売れる」という考えは、私に言わせれば。経験則に裏打ちされた事実というよりも、よく言えば「信念」、中立的に言って「希望的観測」、悪く言えば「妄想」だと思います。

もちろん、この本の通りにやったから成功するとは保証できません。しかし、この22の法則に逆らうことをもしやっていたとしたら・・・、まず、間違いなく「失敗する」でしょうね。

特に1番~7番までの法則の「正しさ」は、もはや圧倒的です。

競合のベンチマークは意味がない

市場参入の一番手になれなかった場合、頻繁に企業は競合の商品をベンチマークして、それをデザインや性能で上回る「品質」で勝負しようとする。「売れるもマーケ、当たるもマーケ–マーケティング22の法則」によると、この戦略は間違っているのだとか。

「いいものをつくれば売れる」というのは、実際に売れたときの結果論に過ぎない。そう信じたい気持ちはわかるし、商品がしょぼくちゃ始まらないのは事実だけれど、そもそもいいものをつくったところで上手くマーケティングできなければ売れるはずのものも売れない。

そして、このマーケティングに関しても、時間的余裕やクリエイティビティ、莫大なマーケティング費用があればどうにかなるはずだろうと思われがちだけれど、資源の問題ではないんですって。

1993年の本だけあって、事例が1970〜1980年代の自動車やPCメーカーだったりするので、一部の法則についてちょこっと現代版の事例を挙げてみた。

一番手の法則

一番手になることは、ベターであることに優る。

先行者利益は、マーケティングにおいてはなおさら顕著なんだそう。市場に後から参入して「うちのほうが品質が上でっせ」と見込み顧客を説得するよりも、顧客の心に最初に入り込んでしまうことのほうが早くて確実だから。

そもそも、人には慣れ親しんだもの、すでにあるものを選び続ける習性がある。また、市場に一番手で参入したブランドは、その商品カテゴリー全体を”代表する”用語になるチャンスが高まる。他にどれだけ競合商品があろうとも、ひとつのブランドがその商品の総称になっていく。

Zerox(ゼロックス)が市場に一番に参入していたため、コピー機はどれもメーカーに関わらず “Zerox machine”と呼ばれたし、ティッシュもそうだった。一番手のKleenexが、メーカーに御構い無しに「ティッシュ」という商品の総称として使われるようになった。

後手で市場に参入して、「一番手より良い商品で勝負を挑む」という戦略は上手くいかない。または、ハードルがめちゃくちゃ高い。それをするくらいなら、次に紹介する法則「一番手になれるあたらしいカテゴリーを自らつくる」に従うほうが賢明だそうです。

カテゴリーの法則

あるカテゴリーで一番手になれない場合は、一番手になれる新しいカテゴリーを作れ。

売れるもマーケ、当たるもマーケ–マーケティング22の法則」では、わかりやすい例として、「大西洋単独無着陸飛行に初めて成功した人は?」と読者に質問。これには、「チャールズ・リンドバーグ」とすぐ出てくる人が多いだろうけれど、「2番目に成功した人は?」と聞かれると答えにつまる人が多いのでは?

2番目もわからないのに3番目に成功した人なんてもっとわからないだろうと思いきや、実は多くの人がこの答えを知っている。それは、アメリア・エアハート。そう、彼女が有名なのは “女性として” 初めて大西洋単独無着陸飛行に成功した人だから。女性という新しいカテゴリーの一番手だったため、広く認知されているというわけ。

消費者は、”better”(より優れた)より “new”(新しい)に反応するもの。一番手と同じカテゴリーで勝負するのではなく、新しいカテゴリーを生み出すこと。そして、そのカテゴリー自体を啓蒙することで市場を拡大していくこと。例えば、Dell(デル)は、”電話で” コンピューターを販売するという新しいカテゴリーで成功した例だと言える。

自分が好んでいる “ブランド”について話すとき、人は保守的になって他を受け付けない傾向がある。「ここの髭剃りが一番いい」「エナージドリンクならRed bullでしょ」ってな具合に。でも、「新しいカテゴリー」となると姿勢がぐんとオープンになる。

まだ存在しない新しいカテゴリーの商品なら、マーケティング活動を「その”新しいカテゴリー”の商品をなぜ購入すべきか」に絞ることができる。新しいカテゴリーにはまだ競合がいないため、消費者はその新しいカテゴリーを最初に開拓した一社から購入することになる。

“When you launch a new product, the first question to ask yourself is not, “How is this new product better than the competition? but “First what?” In other words, what category is this new product first in?”

(新たに商品をリリースするとき、問うべきは “競合の商品に比べてどこが優れているだろうか?”ではない。それは “なんの一番か?”。つまり、この商品はどのカテゴリーで一番なのだろう?と問うことだ。)

5分の瞑想アプリ「Simple Habit」

これに近い現代版の事例が、例えば「Simple Habit」という瞑想アプリかな。リリースから8ヶ月でユーザ数は40万人。ユーザ評価が加味されるというApp Storeのランキングでは、老舗の「Headspace」を追い抜いた。

競合がひしめく瞑想アプリの中でも、Simple Habitは「忙しい人のための5分瞑想」を打ち出してる。多忙な人たちが隙間時間を使って瞑想できるように「シチュエーションごとの瞑想」が用意されてる。大勢の前で講演する直前の瞑想、会議で発表する前の瞑想ってな感じに。

瞑想というと、なんとなくヨガみたいにある程度まとまった時間が必要なのかなというイメージがあるけれど、「5分でできる」という新しいカテゴリーを確立することで勢いを増している。

集中の法則

マーケティングにおける最も強力なコンセプトは見込客の心の中にただ一つの言葉を植えつけることである。

image via. Flickr

マーケティングは、商品そのものより知覚の問題。市場で起きていることより、顧客が考えていること、感じていることが商品成否の別れ道。そもそも「一番手の法則」が重要な理由は、一番手であることで他より先に顧客の心に入り込むことができるから。

顧客の心に入り込むには、彼らの心にたったひとつの言葉やコンセプトを植え付けること。その言葉を聞くと、パッとその商品が思い浮かぶような状態に持ち込むことができるか。

その際、言葉は以下の条件を揃えている必要がある。

  • シンプルであればシンプルであるほどいい
  • その反対を提唱している競合がいない言葉は選ばない(「品質」は適切ではない。なぜなら、「低品質」を売りにする企業はいないから)
  • 狭く具体的であればあるほどいい
  • メリットに根付いた言葉であること
  • 競合がすでに使っている言葉を選ばないこと

 

商品がどれだけ複雑であろうとも、ひとつの言葉・コンセプトを選んで、何事にもその言葉にフォーカスすることが効率的なマーケティングに繋がる。

2つの会社が、同じ言葉で顧客の心に共存することはできないため、必ず他とは違う独自の言葉を選ぶこと。「売れるもマーケ、当たるもマーケ–マーケティング22の法則」では、バーガーキングの “Fast” という言葉を打ち出したキャンペーンを紹介してる。

これは想像するに難くないけれど、Fastという言葉はすでにマクドナルドが独占している言葉だったため、大失敗に終わったそう。

対立の法則

ナンバーツーの座を狙っている時の戦略はナンバーワンの在り方によってきまる

とある商品カテゴリーの二番手がとるべき戦略は、一番手の戦略によって決まる。一番手の最大の強みに着目し、その真逆を提供すること。そうすることで、その他の競合を排除することができる。

反対の強みでもって一番手を攻撃することで、その理由がなんであれ、一番手を選ばなかった顧客は二番手を選ぶことになる。この方法のほうが、一番手と正面から張り合うよりよほど良い。

つまり、”better”(より優れている)よりも “different”(他と違う)であることのほうがマーケティングの生産性を高めることになる。

投資アプリ「Acorn」

この「対立の法則」の現代版事例が、投資アプリ「Acorn」。2014年の8月のリリース以来、70万人以上いるというユーザの大半がミレニアル世代。クレジットカードやデビットカードの支払いを対象に、1ドル未満の端数分を自動的に投資してくれるんだって。

一般的に、投資というとまとまったお金がないと手が出せないものというイメージがあるけれど、Acornはその定説を覆し、「少額からの投資」を提供することでユーザを着々と増やしてる。

ナンバーツーの座からは程遠いと思うけれど、不況しか知らず投資に無関心なミレニアルというセグメントに対して、既存の投資とは真逆の方法を提案することで市場を開拓してる例だと思う。

ティモシー・フェリスの新著「Tools of Titans」

最後に、「売れるもマーケ、当たるもマーケ–マーケティング22の法則」を紹介してくれた「Tools of Titans」をちょこっとご紹介。図書館で予約しておいたものを受け取りに行ったら、なんとその分厚いこと。バイブルか?!ってくらい(笑)。

Tools of Titansという題名からも想像できるように、過去の著名人インタビューの面白いところだけをぎゅっと凝縮した一冊になっております。

箇条書き寄りの文章だから、斜め読みできてるのがとてもいい。彼のポッドキャストは平気で一話が1時間半及んだりするので、”tl;dr”(DMM英会話で解説したよ)な人にもおすすめです。

前半はボディハック系のネタが多くてついていけなかったけれど(汗)、LinkedInの創業者 Reed Hoffman(リード・ホフマン)や Naval Ravikant(AngelList創業者でCEO)など各界の成功者が、自身のライフハックや理念を共有してる。

随所随所におすすめ書籍の紹介もあって、どれも面白そうだからまたまたreading listが長くなってしまう感じ。早く日本語翻訳本が出るといいなと思う。




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