スタートアップは小さなニッチを狙えーー雑誌「TRANSIT」でシリコンバレーについて書いたよ

表紙は、ロスのサンタモニカからマリブに向かう海沿いの道「CA-1 N」

ただいま発売中の雑誌「TRANSIT」をチェック!

ただいま発売中の「TRANSIT(トランジット)36号カリフォルニア もうひとつのアメリカへ」で、シリコンバレーについて書きました。

シリコンバレーの主要エリアを紹介する地図、シリコンバレーの歴史サマリー、注目のスタートアップや、WeWorkへのインタビューなど、旅雑誌の「TRANSIT」らしい内容になっているはず。

ぜひチェックしてみてくださいな。

ピーター・ティールの著書「ZERO to ONE」

TRANSITには、IT業界の著名人による格言を紹介するページも。そこに登場する人物のひとりが、起業家で投資家のピーター・ティール(Peter Thiel)。最近、そんなピーター・ティール著の「ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか」という本を読み始めたの。

“We wanted flying cars, instead we got 140 characters.”

空飛ぶ車が欲しかったのに、代わりに手にしたのは140文字だった。

という彼の現状のIT業界を皮肉る言葉を聞いたことがある人も多いのでは。まだ途中だけれど、スタートアップの市場の選び方についての記述が興味深かったので紹介しようかと。

そうそう、「スタートアップ」という言葉は、どうも定義が曖昧。立ち上げてからの年数、規模、黒字化の有無など幅広い要素があるけれど、ピーター・ティールの一般より広義な定義はなるほどだった。

“Positively defined, a startup is the largest group of people you can convince of a plan to build a different future.”

前向きに定義するなら、スタートアップとは、まだ見ぬ未来を築くための計画に説得させることができる人間の最大数の集まりだ。

グーグルに代表されるモノポリー(独占)

「競争せずに独占せよ」と訴えるピーター・ティールが、その「モノポリー」(独占)企業の例に挙げるのが、グーグル(Google)さん。そして、モノポリーの対照として例に挙げているのが、数々の航空会社。

2012年、北米の航空会社の航空運賃の平均は178ドルで、乗客ひとり辺りの収益はたった37セントだった。いっぽうのグーグルは、その売り上げの21%を懐に収めていた。航空会社に比較すると、その利益率は100倍だったことに。

航空業界が完全競争にあるのに対して、グーグルは一人勝ち。市場参加者が多い完全競争では、一社が価格決定に影響力を持つことはできないけれど、グーグルは検索市場をほぼ独占しているため、価格決定は思いのまま。

ピーター・ティールいわく、モノポリーの企業は、「技術の所有」「ネットワーク効果」「規模の経済」「ブランディング」の要素の掛け合わせることで成り立っていることが多いのだとか。

この中でもネットワーク効果は、その製品やサービスを使う人が増えれば増えるほど、その利便性が増すものを指す。わかりやすい例が、フェイスブック(Facebook)のようなSNS。周りの友人がみんな使っていれば、「自分も」となるものね。

ターゲットは小さく、明確に絞る

ネットワーク効果が発揮されるには、その初期の少数ユーザに対してまず価値をもたらさなきゃいけない。例えば、フェイスブックは立ち上げ当初から世界を旋風するSNSを目指していたわけではなく、ハーバード大学の学生、その中でもマーク・ザッカーバーグの同級生が登録したくなるサービスをつくろうとした。

どんなスタートアップも、市場を慎重に選ぶ必要があるのは当然のこと。大きな市場を狙うより、小さな市場のほうが独占しやすいことは言うまでもない。だから、デフォルトで小さく始まるしかないスタートアップは、小さな市場を狙うべきだというのがピーター・ティールの考え方。

これは、彼が共同創業したPayPalでまさに学んだこと。最初に狙った市場は大きすぎて、ターゲットに対してこれという価値をもたらすことができなかった。そこで、eBayで頻繁にオークション取引をする数千人の”パワーセラー”に焦点をあてた。的を絞ったことで、たった3ヶ月後、PayPalはパワーセラーの25%に指示されるようになったそう。

スタートアップにとって理想的なターゲット市場は、一箇所に集まった特定の少人数グループ。メインストリームではない、ニッチだけれど同じ趣味を持っている人たちとか。さらに、競合がいない、または少ないこと。大きな市場を選ぶのは間違いだし、すでに競合がひしめき合っている場合はなおさらダメ。

だから、「1,000億ドル市場の1%を狙う」と意気込むスタートアップには要注意。巨大市場は出発地点の手がかりを見つけにくく、競合も多い。仮に運良く1%を獲得できたとしても、終わりの見えない価格競争のなかでの黒字化は厳しい。

ニッチを独占したら横展開でスケール

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ニッチな市場を独占できたなら、関連性がある今より少し大きい市場に拡大していく。アマゾン(Amazon)を創業したジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)は、最初から「オンライン販売を独占する」という大きなビジョンを抱えていたものの、まずは書籍に特化した事業から始めた。

世の中に存在する書籍の数は膨大で、どれもだいたい同じような形や大きさをしていたため出荷しやすい。また、書店では滅多にお目にかかれないような珍しい本を扱うことで、読書熱心な顧客をファンにすることができた。こうして、アマゾンは珍しい本を探し求める人、また近所に書店がない人にとって一番の選択肢になっていった。

ここまで来た時点で、アマゾンには2つの選択肢があった。「書籍を読む人口を増やす」か「事業を横展開するか」。ジェフ・ベゾスは後者を選び、書籍に比較的近いCDやビデオといった市場に拡大した。この戦略を繰り返すことで、アマゾンは世界最大のゼネラル・ストアになった。

eBayも同じ戦略で、最初から世界を狙うのではなく、ニッチな趣味を持った小規模なユーザ層を狙っていった。例えば、「Beanie Babies」というぬいぐるみのコレクターとか。そこを独占することで事業を大きくしていったんだそう。

セス・ゴーディンの”First, ten”

この話を読んで、セス・ゴーディン(Seth Godin)の  “First, ten”と題されたブログ記事を思い出した。2009年公開のマーケティングについて説いた簡潔な記事だけれど、今も当てはまる。

まずは、10人の人を見つける。あなたを信用し、尊敬し、必要とし、耳を傾ける10人を。あなたが売ろうとする何かを必要としている、または求めている10人を。

その10人があなたの商品にハマれば、あなたの勝ち。本気でハマったなら、彼らはそれぞれ10人(または100人、1,000人、またはたった3人かもしれない)の友達に伝えるはず。そしてそれが繰り返されていく。彼らが興味を持たなければ、新しい商品をつくって出直す必要がある。

匿名の不特定多数に対してマーケティングをするべきじゃない。彼らは匿名でもなければ、不特定多数でもないんだから。マーケティングは、積極的な参加者に対してのみ行うべき。まずは10人から小さく始めて、そこから徐々に波を大きくしていけばいい。

生き残っているサービスはどれもニッチから始まった

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フェイスブック(2004年創業)に代表されるSNSやオンライン三行広告「Craigslist(クレッグズリスト)」(1995年創業)を除くと、昔からあって未だに活用されているウェブサービスって限られる気がする。

Bustleの”10 Websites from the early 2000s you forgot about…”と題された 記事にあるように、生き残ったサービスはあるだろうけれど、日々新しいウェブサービスが産声をあげるなかで、いまだに変わらず存在感を放つサービスは珍しい。

で、生き残っているサービスを見てみると、残っているのはどれもピーター・ティールの言う「まずは小さなニッチを独占せよ」という戦略にならっているものばかりかも。前述の通り、フェイスブックはそうだし、クレッグズリスト(Craigstlist)も、最初はサンフランシスコのテクノロジーとアートシーンを伝えるためのメルマガとして始まったし。

Deliciousさん、今度こそサヨナラ:Yahooに始まる5度の買収、長きにわたる大惨事から学ぶ」で書いたDeliciousの創業は2003年。残念な結果に終わったけれど、それでも創業から14年経っても利用者がいることに変わりない。

いまだに健在な日本の類似サービス「はてなブックマーク」のリリースは2005年。国は違えど、どちらもIT業界のギークな人たち(当時はニッチだった)を対象にしている点が共通している。

2006年創業でいまだに現役の「reddit」

今さらすごく気になっているのが、自らを”Front page of the internet”(インターネットの第一面)と称し、2006年に創業した「reddit」。ウィキペディアによると、月間ユニークユーザ数は2億3,400万人超。訪問数が多いサイトとして北米で4位、世界でも9位にランクインしてる。

日本の「NewsPicks」や「スマートニュース」といったニュースキュレーションサービスの原型とも言えるね。サイトのデザインが超シンプルで昔から大きく変わらないのはクレッグズリストと同じ。

あまり話題になることはないものの、redditこそ、2000年代に登場していまだにアクティブに活用されているサービスのひとつだよね。今は、セレブや著名人を含む人に質問できる “Ask Me Anything”と呼ばれるリアルタイムのQ&A機能が人気。オバマ元大統領も現役だったときに使ってた。

と改めて調べていたら、ちょうど今、redditが評価額17億ドルで新たな資金調達に向けて動いているらしい。これだけ人気だけれど、いまだにビジネスモデルを確立できておらず(スケールを重視した戦略の行く末)。立ち上げすぐにインキュベーター「Y Combinator」を経て、翌年にはコンデナストに売却。2011年、コンデナストは株式を保持したまま、サイトをスピンアウトした。

10年以上経ってもビジネスモデルが確立できていないものの、キャズムを超えているのはたしか。サイト立ち上げ当初は、偽アカウントをつくって”盛り上がってる感”を出してたとか。キャズムといえば、「キャズム Ver.2 増補改訂版 新商品をブレイクさせる「超」マーケティング理論」を読まなくっちゃ。

何はともあれ、redditの軌跡は一度まとめてみたいな。

んじゃ、またねん。


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